【人の世のこと】

 

 私達の住んでいる世界は人間をはじめとして、いろいろの動物、植物、鉱物、そして機械や建物など、多くの物によって出来上がり、その物の働きによって動いています。ところが私たち人間は、身体という物の働きとともに、心という目に見えない働きがあります。

 この世の進歩発展すること、ひいては私たちの幸福のためには、物の働きを調べる科学も大切ですが、同時に心の勉強が大切です。その心の勉強について正しく教えてくださったのが、インドのお釈迦様であり、日本の聖徳太子や親鸞さまなどであります。

 

       〔世の中は結び合っている〕

 

1.世の中のすべてのことは、どうして起こるのですか。

 

  すべての事は、必ず種のように元になる原因があり、それを助ける

  条件や、いろいろの力の組み合わせによって結果が起こるもので

  す。このことを「因縁」と言います。

 

2.私たち人間のことも、因縁がありますか。

 

  そうです。必ず因があり、ほかの縁によって動かされています。

 

3.私たちは生きている限り、いつも他の人と関係があるわけですか。

 

  そうです。網の目のようにすべてのことが皆互いに因となり縁とな

  って結び合っています。だから、私たちが良い人になろうとするこ

  とは、すべての人がよくなる力のもとになることができます。反対

  に、私たちが悪い行いをすると、それが因縁になって世の中の全体

  に悪い結果をおこすことにもなります。このように世の中のすべて

  の事は因縁によって起こりますので「縁起」とも言います。

 

       〔すべては動いている〕

 

4.この世界はいつまでも変わらず続くでしょうか。

 

  いいえ、この世のすべてのものは、きまった形で続くことはなく必

  ず変わります。このことを「無常」と言います。

 

5.なぜ、変わるのですか。

 

  温度によって水が氷になったり、水蒸気になったり雲や雪になるよ

  うに、因縁によって今の形があるのですから、今からの因縁が変わ

  れば今の形も変わります。これこそ、変わらぬ本当の形というもの

  はありません。

 

6.因縁が変わるといっても、変わらないものもあるのではありません

 か。

 

  いいえ、どんなものでも他のものと離れて一人でいることはできま

  せんので、いつ、どこで、どんな縁が起こり変わるかわかりませ

  ん。ですから、今の形は、仮の形というわけです。

 

7.では、私たち人間も仮の形でしょうか。

 

  そうです。因縁によっていろいろの物が集まり、この私の身体と心

  ができ上がっています。どんな因縁で、大きな怪我をするかもしれ

  ません。ですから、今の身体を大切にしたいものです。くわしく言

  えば、私は毎日変わっています。

 

       〔心は六つに変わる〕

 

8.六つの心とは、どんな心ですか。

 

  天、人、阿修羅、畜生、餓鬼、そして地獄という六つの世界の心で

  す。

 

9.天の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  うれしい気持ちがいっぱいで、自分のこと以外は考えない心です。

  だから、すっかり得意になって夢中でいる時のことを「有頂天」と

  も言います。

 

10.人の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  ふつうの人間の心のことで、苦しいことがいっぱいの心です。

 

11.どんな苦しいことがありますか。

 

  「四苦八苦」と言われています。

 

12.四苦八苦とは、どんなことですか。

 

  ①生まれる苦 ②年老いる苦 ③病気の苦 ④死ぬ苦 ⑤好きな人

  や物に別れねばならない苦 ⑥大きらいなことに会わねばならない

  苦 ⑦ほしいものを得られない苦 ⑧思うようにならない身体の働

  きの苦 の八つです。

 

13.阿修羅の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  争うことに夢中になる心で、けんかや戦争をして他人に勝とうと

  し、法律に背き、社会のきまりを破り、自分のことを忘れる心で

  す。このことから「我無修羅」と言うことばもあります。

 

14.畜生の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  犬や猫のように、恥じを知らない心です。

 

15.恥を知らないとは、どんなことですか。

 

  自分が受けた親切を忘れ、他人に迷惑をかけても平気でいる、わが

  ままなことを「恥しらず」と言います。

 

16.餓鬼の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  いつも、何かほしいと、うえている心です。

 

17.地獄の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  他の人の欠点を探して、それをさばき責めいじめ、そして自分自身

  も責めいじめられ、いつまでも苦しんでいる心です。

 

18.私たちは日ごろ、どの世界の心にいますか。

 

  あるときは餓鬼(なにかほしい)の心、あるときは天(うれしい)

  の心と、朝から晩まで絶えず変わって六つの世界をぐるぐる回って

  います。親鸞さまは「地獄は住みかである」と言われました。この

  ような人の世を「シャバ」とも「迷いの世界」にいるとも言いま

  す。

 

19.天(うれしい)の世界の心が、幸福なのではありませんか。

 

  いいえ、自分は楽しいと思っていますが、長くは続かずいつか破れ

  ます。そしてその後には、かえって苦しみの原因となります。ま

  た、うれしい心といっても自分だけで、みんな別々の世界に住んで

  いるので、さびしい思いです。

 

20.どうして人間は、同じ地球に住んでいながら、心は別々の違う世界

  を作るのですか。

 

  兄弟でも性格が違うように、人はそれぞれ生まれた所が違い、育て

  られた生活が違うため、行いや心も大変違う働きをするからです。

 

       〔よい心のすがた〕

 

21.この世の人々は、みな迷っているのですか。

 

  いいえ、迷いの心を離れた、別の清らかな世界の心を持った立派な

  人たちもおられます。

 

22.すると、立派な人とは、どんな人ですか。

 

  自分だけが幸福になればよいという利己主義の人でなく、自分の勉

  強したことやお金を、社会のために役立てようとする人が本当に立

  派な人です。もっと言いかえると、心と行いが六つの迷いの世界を

  離れて、迷わない世界の心を求める人こそ、立派な尊い人と言えま

  す。

 

23.迷わない世界とは、どんな世界ですか。

 

  声聞、縁覚、菩薩、佛、の四つの世界のことです。

 

24.声聞の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  正しい教えを聞いて、人の世の本当のすがたを知ろうとする心で

  す。

 

25.縁覚の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  いろいろのことに出会った時、一人で正しい道理に気づき、自分を

  反省する心です。

 

26.菩薩の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  正しい道理を求めつつ、他の人とともに本当の幸福な世界に住もう

  と願い、努力する心です。

 

27.佛の世界の心とは、どんな心ですか。

 

  あらゆる欲の心をはなれ、真理をさとり、すべてのものを助けよう

  としておられる清らかな心であります。この佛の世界を「浄土」と

  も「極楽」とも言います。

 

28.私たちも、迷いのない世界の心になることができますか。

 

  はい、できます。それにはまず、自分の本当のすがたを知ることが

  大切です。